池袋の駅を降りてサンシャイン通りの方へ向かって歩く
私が向かっているのはビックマッスル池袋店
通称BM
ビックマッスルは関西地方を拠点としているTCGの専門店だ
去年、激戦区池袋に関東第一号店をオープンしたにも関わらず
一年で池袋ナンバー1まで登り詰めた強豪店である

話を聞くからに、池袋店の店長である「ぐーやん」がカナリのやりてらしい
ぐーやんというアダ名は、彼が酔っ払うと誰彼かまわずグーで殴り飛ばしてしまうところから付けられたらしい
因みにジャンケンでも無意識にグーを出してしまうため、ジャンケンは得意ではない

5分ほど歩いて私はBMの入っているビルの前に到着した
エレベーターに乗り6階のボタンを押す
エレベーターというのは不思議なモノだ普段なら普段ならペチャクチャ煩い中年女子や、女子高生ですらこの四角い箱の中では無口になる
階数が表示されている電子盤が1階、2階と進んでいく

「テメぶっ飛ばすぞっ!」

丁度5階に差し掛かった時、上の方から前に聞いた事のある甲高い軽い声が聞こえてきた
もしやこの声は?

チーンという音と共にエレベーターの扉が開いた



ケンイチ・マツモコ

2013年5月18日
目を開くと、いつもの見慣れた天井が映った
昨日は飲み過ぎたらしい
自炊を出たあと、地元駅の行きつけの飲み屋にいった迄は覚えているのだが
それにしても昨日の話は衝撃的だった
何気なくプレイしていたマッスルにそんな秘密があるなんて
そしてケンちゃんが日本代表のプレイヤー、、、

私はパソコンを開き過去の日本マッスル選手権の記事を探しはじめた

2005年チャンピオン
ケンイチ マツモコ 愛称はマツケン
突如現れた新星、ストレートで日本選手権を勝ち抜き
今後を期待されていたが、タイトル獲得後姿をくらます

記事は思ったより早く見つかった
ストレートで優勝か
運が絡むTCGでこれは凄い偉業である
ケンちゃんがマジックの世界にスカウトされたのも頷ける

ん?マッスル新エキスパンション発売、今日?
やべ、今日が発売日だっての忘れてた

私は急いで身支度をすませ家を出た

MTGの真実

2013年5月17日
マスターの話は驚くべきものだった

1、我々が普段遊んでいるMTG「マッスル・ザ・ゲート」は本当のMTGではなく伝説のTCG、マジック・ザ・ギャザリングというゲームが存在していること

2、MTGを販売しているウィザーズ・オブ・ザ・ゴースト通称WotGは
WotC、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストという会社の子会社であること

3、マジック・ザ・ギャザリングは招待制の賞金制カードゲームで、マッスル・ザ・ゲートで優秀な成績を収めた者にのみ免許が与えられプレイが許されている事

4、その事実は世間には公表されておらず、その存在を知っているものは数少ない

私は驚きのあまり、しばらく何も喋る事ができなかった
昔から遊んでいたMTGは本当のMTGではなかった
そして、ケンちゃんとストーンリバーは本当のMTGのプレイヤー
しかし、何故マスターは私にこの話をしてくれたのだろうか?
別にマッスルのチャンピオンでもなく、平凡な一プレイヤーの私に
そんな事を考えながら私は家路についた

ストーンリバー

2013年5月17日
「ゴメンね、いつも騒がしくて」

マスターはそういいながら、いつものウイスキーのロックを出してくれた
心なしかいつもより量が多い
マスターなりの気遣いなのだろう
私はいつもジャックダニエルのロックを頼む
昔観た映画の主人公が飲んでいた姿がとてもカッコ良くて、それ以来ずっとコレだ

一通り客が掃けたのを見計らって私はマスターにさっきの客の事を聞いた

「ああ、さっきの外人さんね」

どうやらストーンリバー氏は外国人らしい
マスターの話では、彼は日本人の母とブラジル人の父の間に生まれたハーフらしい
父親の仕事の都合で幼い頃はウガンダ共和国で育ったそうだ

「彼、変わってるでしょ」

はぁ、確かに

「幼い頃ゴリラと一緒に育ったらしくてね」

ドラミングが癖と言っていたがそういう事か、ウガンダ共和国で育ったというのも頷ける

ゴリラは興奮したり、相手を威嚇をする時に自分の強さを示す為にドラミングという行動をとる
ゴリラのドラミングはテレビなどで見た事はあるが、人間のドラミングを見たのは今日が初めてだ

「ケンちゃんのMTG仲間らしくてね、たまに店に顔を出すんだよ」

彼もマッスル・ザ・ゲートのプレイヤーか
ん?待てよ、確かケンちゃんはもうMTGをやっていないんでは?
先日の話も気になっていたので、私はその事も含めマスターに尋ねた

「ああ、その事ね」

少しの沈黙が訪れる

「君は口が固そうだからいいか、実はね」

そういってマスターは話し始めた
店内は静まりかえっていた

店の中央に対峙する男が二人
一人は小太りな中年、ケンちゃん
もう一人は初めて見る客だ
ガタイが良く、長身で茶色い目をしている
ハーフだろうか?

「いつも言ってるだろうが、興奮したからって何処でもドラミングするんな!」
「しょうがないだろ、昔からの癖なんだよ」

彼は両手の拳を振り上げ自分の胸を叩き出した。

「だからうるせーよ!他の客に迷惑だろ!もういい、帰るぞストーンリバー!」

ケンちゃんはストーンリバーと呼ばれた男の腕をつかみ店を後にした


「いらっしゃい」

ドアの側でボーっとしていた私を見つけてマスターが声をかけてくれた
私はカウンターに座るといつものウイスキーを注文した

BAR自炊

2013年5月17日
先日のマスターの話が気になり私は今日もBAR「自炊」へ向かった

BAR自炊はマスターが30歳の時に脱サラして始めたらしい
副業が忙しくなり、会社勤めをしているのがキツくなってね
前にそうマスターは話してくれた
何の副業をしているのかは秘密みたいだ

自炊という名前からして食堂を思い浮かべてしまいそうだが、この名前はマスターの後輩の消防隊員から取ったらしく、食堂とは全く関係がない
マスターいわく、彼の様にたくさん散財して欲しいという意味を込めたようだ

自炊さんという方は一体どんな方なのだろう

そうこうしている間に自炊に到着した
私が店に入ろうと扉に手をかけたその時だった

「テメっぶっ飛ばすぞ!」

店の中から怒鳴り声が聞こえた
どうやら中で酔っ払い同士がが喧嘩しているようだ
巻き込まれても面倒くさい
一瞬店に入るのを止めようかと思ったが、例の話をどうしてもマスター聞きたくて、私は扉を開いた


私は彼の事が気になりBARのマスターに尋ねた

「ああ、ケンちゃんの事かい?」

この店のマスターとは付き合いが古い
初めて訪れたのは会社の忘年会の2次会だった
その時、学生時代流行っていたTCG、マッスル・ザ・ゲート
通称MTG
その話で盛り上がって以来贔屓にさせてもらっている
MTGは私が社会人になっても続けている数少ない趣味の一つである

「なんか嫌な思いさせちゃったかい?彼は口が悪いからね、私が代わりに謝るよ」

確かに口は悪かったが、私は小肥りの方が気になった
それに彼の言葉に悪意は感じなかったので、私は不思議と不快には感じていなかった

「実はね、彼もMTGをやっているんだよ、年齢も君と同じ位じゃないかな、ほら」

そういいながらマスターは何かの雑誌の切り抜きを見せてくれた
そこには高々と優勝カップを掲げた彼が写っていた

「いや、正確にはやっていた、、、かな、今はもう、、、」

マスターの表情が曇った

「つまらない、話をしてしまったね、ゴメンよ」

そう言い残し、マスターは厨房へ消えた
やっていた、、、?
別に同い年くらいの人間であればやっていてもおかしくないほどMTGは流行っていた
そして進学や就職と同時に辞めていった仲間は大勢いる
別にやめた事については珍しい事ではないと思うのだが、何でマスターはあんなに意味深に言ったのだろう?
そんなモヤモヤした気持ちを抱えながら、その日は店を後にした

全ての始まり

2013年5月17日
そう、彼との出会いは偶然だった
千葉の繁華街にあるBAR、「自炊」
そこで彼にあった

少し小肥りだが何故か自分に自信がありそうな感じの目が今でも印象に残っている

1人スマートフォンでDNを見ながらウィスキーを呑んでいると
彼が声をかけてきた

「そんなもん見ても何にもなんねーぞ、そこにいる奴らは距離感の分からねー奴とコミュ障ばかりだ」

確かに彼の言っている事は的を得ている。
私も前からそう感じていた
小さな世界で評論家ぶって偉そうな事を言っているが、現実世界で皆からハブられた奴等
そんな奴らが集まっているのがDNだと

「あと、ウィスキーにはコーラだろ、俺はコーラしか呑まねー、覚えとけ」

そのまま彼は店を後にした

最新の日記 一覧

<<  2025年4月  >>
303112345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930123

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

まだテーマがありません

この日記について

日記内を検索